東京大学 藤原研究室,研究室概要
コンピューターの中に新物質と新現象を作る
第一原理電子構造理論によるさまざまな物性の解明と物質設計
物質設計の分野では、個々の原子の電子状態、及びその時間変化に対する振舞いを調べて各物質の持つ物性を解明し、更にそのメカニズムを制御することにより新たな物質設計を行うことが近年重要になってきています。

日常で目にすることができる描像は古典力学で記述できます。しかし、ナノメートルオーダー以下の描像を記述するには量子力学的効果を考慮する必要があります。

当 研究室では、第一原理電子構造理論を用いて、様々な物性を量子力学的に解明し、物質設計を行っています。第一原理電子構造理論とは、実験的パラメータを用 いることなく、原子核の空間的配置の指定のみでシュレーディンガー方程式を解き、物質の電子構造を決定する理論です。第一原理電子構造理論が注目されてい るのは、実験結果から決定されるパラメータを用いる模型理論とは異なり、実験的パラメータを用いずに各物質の電子密度分布を求め、その物質の電子状態、物 性を定量的に予測できるほぼ唯一の手法であるからです。

計算機演算能力の飛躍的な向上に伴い、第一原理電子構造理論は飛躍的な発達を遂げています。それに伴い、第一原理電子構造理論の適用範囲も今後ますます広がっていくと考えられます。

当 研究室の究極の目標は、原子・分子などのミクロな系から固体などのマクロな系までを統一的に論ずる第一原理電子構造理論を構築し、新しい物質および現象の 設計図を描くことです。具体的には、主に下記2テーマに沿った研究を行い、物質材料設計のための統一的な第一原理電子構造理論の確立を目指しています:

(1)大規模系における量子力学的第一原理分子動力学計算の開発
産業における有用性を念頭におきつつ、100nmスケールサイズの原子数を扱うことの出来る第一原理分子動力学シミュレーション技術の開発と応用
(2)強相関電子系に対する第一原理電子構造理論の開発
多彩な物理現象を持ち、今後ますます重要な物質となる強相関電子系に適用できる第一原理電子構造計算手法の開発。特に、1電子バンド抽象と多電子抽象を融合した第一原理電子構造計算手法の構築、及び強相関電子系への応用。
第一原理電子構造論によるさまざまな物性の解明と物質設計
文部科学省研究補助金特定領域研究
「次世代量子シミュレータ・量子デザイン手法の開発」ロゴマーク

【外部資金によるプロジェクト】
(1)科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)プロジェクト
   (「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」領域)
   「複合手法を用いた電子構造計算技術の開発」
(2)文部科学省科学研究費補助金特定領域研究
   「次世代量子シミュレータ・量子デザイン手法の開発」
(3)ELSES(Extra Large Scale Electronic Structure calculation)研究会
【用語解説】
第一原理電子構造理論
多電子系を量子論的に取り扱うためには、多体のシュレーディンガー方程式を解かなければなりません。しかし、これを直接解くのは非現実的なので、何らかの 近似を導入することが必要となります。そこで、それぞれの電子が原子核と全電子の作る平均的なポテンシャル中を運動すると考えることにします。この考え方 に基づき、実験的なパラメータを用いることなく、原子核の空間的配置の指定のみで物質の電子構造を決定する理論を「第一原理電子構造理論」と言います。

第一原理電子構造理論において最も多く用いられている手法は、密度汎関数理論(DFT)に基づく局所密度近似(LDA)です。これは電子密度のエネルギー汎関数に関する変分原理により基底状態を求める理論です。

また、第一原理電子構造理論に基づき、原子の動き毎に全エネルギーと原子に働く力を正確に求め、系の静的、動的安定構造や、動的過程を解析することができます。これを「第一原理分子動力学法」と言います。

強相関電子系
電 子の跳び移り積分に比べ、電子間相互作用が強く働く系は強相関電子系と呼ばれています。強相関電子系の代表的物質は、遷移金属化合物で、これらの物質には 金属ー絶縁体転移、巨大磁気抵抗効果(CMR)、超伝導といった強相関電子系特有の多彩な物理現象が現れます。これらの性質を元にして、新しい化合物やデ バイスが近年次々と作られています。

従来のLDAは、1電子バンド描像に基づいており、電子間相互作用が弱い場合においては、基底状態を正しく記述し非常に 良い結果を与えます。しかし、強相関電子系では、バンドギャップやバンド幅などの基本的な物性量をLDAを用いて第一原理的に決めることは困難です。これ は、LDAが電子の多体効果を平均的にしか取り扱うことができないためです。

そこで、強相関電子系の物理現象を定量的に理解するためには,電子間相互作用を多体問題としてより具体的に取り扱うことのできる新たな基礎的方法論の開発が必要となります。